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大阪高等裁判所 平成2年(ネ)2539号 判決 1993年5月28日

控訴人

長谷川奨

右法定代理人親権者父兼控訴人

長谷川好英

同母兼控訴人

長谷川雅江

右三名訴訟代理人弁護士

石川寛俊

岸本佳浩

竹岡富美男

被控訴人

右代表者法務大臣

後藤田正晴

右訴訟代理人弁護士

小澤義彦

右指定代理人

山口芳子

外四名

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一控訴人ら

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は、控訴人長谷川奨に対し金九三七二万〇五五四円、同長谷川好英及び同長谷川雅江に対し各金五五〇万円並びにこれらに対する各昭和六〇年一一月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二被控訴人

主文同旨

第二事案の概要

原判決四枚目表末行の次に行をかえて次のとおり加えるほか、原判決の「第二 事案の概要」欄に記載のとおりであるから、それを引用する。

「4 江崎医師は、骨盤位分娩において通常求められている娩出術の適切な実施を怠り、帝王切開による娩出までの間、胎児を低酸素状態に置いた。」

第三争点に関する当事者の主張

次のとおり付加訂正するほか、原判決の「第三 争点に関する当事者の主張」欄に記載のとおりであるから、それを引用する。

1  原判決五枚目裏一行目の「ものである」を「ものであり、そうでないとしても、複殿位であったものである」に改め、同二行目の「の場合」の前に「又は複殿位」を加え、同一〇行目の「前記破水」を「前期破水」に改め、同末行の「足位」の次に「又は複殿位」を加える。

2  同六枚目表四行目末尾に続けて「また、医学文献によれば、複殿位の場合は、帝王切開の「比較的適応」、経膣分娩の条件を満たさない「ボーダーライン」、「境界域」などとして経膣分娩の適応となる単殿位と明瞭に区別して、帝王切開も考慮すべきことが警告されている。」を加え、同七行目の「足位」の次に「又は複殿位」を加える。

3  原判決七枚目裏末行の次に行をかえて次のとおり加える。

「(争点4について)

6 適切な娩出術の実施

本件では臍帯脱出後、その場に立ち会っていた江崎医師が臍帯還納術及び牽引術を試みている。

被控訴人の主張及び江崎医師の証言は、臍帯脱出時、子宮口はほぼ全開大(約一〇センチメートル開大)となっていて、右牽引術は「正当な」処置であったとしている。

しかし、牽引術を行う以上、その要件は子宮口全開大でなければならないから、これを実施する医師には、子宮口が全開大であることを十分確認したうえ、適切な牽引術を行う注意義務がある。

本件において、胎児は、出産時体重が二五四〇グラムで、CPD(児頭骨盤不均衡)などの事情がなかったのであり、他方子宮口は全開大で、臍帯脱出時非常に軟らかくなっていたというのであるから、分娩に立ち会う医師が通常行われる牽引術を行えば、胎児は娩出されたはずである。

江崎医師は、子宮口から出てきた胎児の足を持ち、かつ膣に側切開を施して、牽出術を行ったが、胎児は娩出されなかったという。

しかし、右のような産婦と胎児の状況からすれば、分娩に立ち会った医師において、横8字法等を適切に用いれば、胎児の娩出ができたはずである。

万一胎児の上肢が挙上していて、そのために牽出ができないのであれば、上肢解出術によって容易に娩出することができたはずである。

しかるに、江崎医師は、胎児を娩出できなかったのであるから、同医師は、子宮口が全開大であることを十分確認しないまま牽引術を行ったか、又は骨盤位分娩において通常求められている娩出術の適切な実施を怠った結果、後の帝王切開による娩出までの間、胎児を低酸素状態に置いたものというほかはない。」

4  同八枚目表二行目冒頭の「6」を「7」に、同裏八行目冒頭の「7」を「8」に各改める。

5  同一二枚目裏一〇行目の次に、行をかえて次のとおり加える。

「(争点4について)

6  適切な娩出術の実施

控訴人ら主張の横8字法や上肢解出法は、確かに骨盤位分娩において一般的に行われている方法であるが、いずれも胎児の殿部が膣口を通り過ぎ、胎児の臍のあたりまで膣口から娩出した段階において施術を開始するもので、「骨盤位牽出術」と呼ばれており、胎児を牽引するのではなく、胎児に回旋を与えて上肢や肩・頭部などの抵抗を少なくしながら娩出を図るものである。

本件は、複殿位の分娩であって、子宮口がほぼ全開大した時点で破水とともに一側下肢及び臍帯が脱出したものであり、右一般的な骨盤位牽出術を行う余地はなかったのである。

本件において、江崎医師が行ったのは、右の「骨盤位牽出術」ではなく、急速遂娩法としての「骨盤位牽引術」であって、胎児の殿部が膣口よりはるか上方にある段階で胎児の足を膣外に引き出し、これを牽出することによって胎児の娩出を図るものである。これは、臍帯脱出に伴ない胎児娩出に急を要するため、緊急避難的に行われたもので、上肢挙上や児頭反屈などが起こりやすいうえに、医師の介助の手が挿入しにくいこともあって時に娩出困難となることがあり、強行すれば胎児の分娩損傷を来す可能性も高い。

産科の臨床医として一五年もの経験を有する江崎医師にしてなお娩出に成功しなかったのは、右のような事情によるものであって、一般的な「骨盤位牽出術」を前提として同医師の過失を論ずることはできない。」

第四証拠<省略>

第五争点に対する判断

当裁判所も控訴人らの請求は理由がなく、いずれもこれを棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり付加訂正するほか、原判決の「第四 争点に対する判断」欄に記載のとおりであるから、それを引用する。当審における証拠調べの結果も、右認定・判断を左右しない。

1  原判決一三枚目表三行目の「同江崎洋二郎」の次に「(原審・当審)」を、同四行目の「尋問の結果」の次に「、当審における鑑定の結果、弁論の全趣旨」を、同七行目冒頭の「師」の次に「(昭和五八年から同六〇年までの間、同病院の研修医であり、当時江崎医師(本件出産・分娩当時までの産婦人科医師経験約一五年)の指導を受けていた。)」を各加え、同行の「同医師」を「芝本医師」に改める。

2  同一五枚目表四行目の「足部」を「片足」に改め、同末行の「連絡を」から同裏四行目の「そのため、」までを次のとおり改める。

「連絡を受けて駆けつけた江崎医師は、澤本助産婦と協力して約二分をかけて臍帯還納術を試みたが、成功しなかった。しかし、控訴人雅江の子宮口はほぼ全開大で、子宮頚管も完全に展退しており、かつ胎児の推定体重が約二六〇〇グラムとやや小さめであったため、江崎医師は、骨盤位牽引術を試みることとし、控訴人雅江の膣に側切開を施し、子宮内に残っていた胎児の片足を外に引き出したうえ、その両足を手に持ち、控訴人雅江の怒責に合わせて二回にわたり約三分をかけて牽引したが、かなり高い位置で強い抵抗を感じたため、牽引を中止し、胎児は娩出されなかった。そのころ、連絡を受けて外来の診察室から駆けつけた芝本医師が分娩室に到着し、直ちに帝王切開を行うことが両医師によって決定され、その準備のため、控訴人雅江は分娩監視装置を外された。(右臍帯脱出の発見から帝王切開の決定までの時間はおよそ八分余であった。)他方、」

3  同一六枚目裏五行目から六行目へかけての「同江崎洋二郎」、同一七枚目裏八行目及び同一八枚目裏一〇行目の「証人江崎」並びに同一九枚目表一〇行目の「同江崎」の次にいずれも「(原審)」を各加える。

4  同一八枚目裏七行目末尾の「したがっ」から同八行目の「できる。」までを削り、同一〇行目の末尾に続けて次のとおり加える。

「さらに、当審における鑑定の結果によれば、分娩第一期の経過中には、反復する子宮の収縮によって胎児の先進部が圧迫されて下降しながら頚管が開大するため、この間に子宮の収縮による圧力に逆らって胎児が足のみを下方に伸ばした足位をとることは物理的にも考えられず、臨床的にも分娩第一期に足位から複殿位に変わることはあっても複殿位から足位に変わる例はないことが認められる。以上の各事実に前記一4に認定の事実を総合すると、控訴人奨は、破水までは複殿位、破水と同時に片足が子宮頚管の外に臍帯とともに脱出して不全足位になったものと推認される。」

5  同二〇枚目表五行目の「、足位一八パーセント」を削り、同七行目の「等」を「や胎児仮死の徴候がある場合」に改め、同末行の「こと」の次に「及び当審における鑑定の結果」を加え、同裏四行目の次に行をかえて次のとおり加える。

「また、甲第一七(昭和五八年一月から同六二年一二月までの満五年間に東京慈恵会医科大学病院で行われた骨盤位帝王切開症例四六例を分析した論文)、二〇(「骨盤位への対応」と題する防衛医科大学校産科学教室教授・助教授による昭和六〇年発表の論文)及び二七(「産婦人科医療事故防止のために」と題する「社団法人日本母性保護医協会」平成二年一月刊行の冊子)号証によれば、複殿位の場合は、帝王切開の比較的適応、ボーダーライン、境界域などとして、帝王切開も考慮すべき旨を説く医学文献のあることが認められるが、右いずれの文献も、複殿位であることにより、当初から帝王切開を選択するか、又は、直ちに帝王切開が可能な状態での経膣分娩を行うべきである旨を説いているものではない。その他本件全証拠を総合して検討してみても、本件分娩に立ち会った医師らに、本件の出産・分娩当時の臨床医学の実践における医療水準に照らして、そのような義務があったものとすべき事実関係を認めるに足りない。」

6  同二一枚目表四行目の「数回」を「少なくとも六回、しかも後になるほど頻回に」に、同六行目の「各内診の正確な時間」を「右記載にかかる内診の正確な時刻」に、同七行目の「こうした事実に鑑みると」を「右各事実のほか、当審における鑑定の結果をも総合すると、骨盤位の内診において臍帯下垂の診断が重要なことは助産婦も十分教育されているのが一般であることが認められる。以上によれば」に、同行末尾から同八行目冒頭にかけての「いうことはできず、また」を「するに足りず、かえって」に各改める。

7  同裏六行目の「の欄外数字「22697」付近から約二分間」を「から」に改め、同八行目の次に行をかえて次のとおり加える。

「当審における鑑定の結果及び弁論の全趣旨によれば、乙第六号証の欄外数字「22694」付近及び「22697」付近の時点において徐脈と思われる現象のあったことが認められるが、その後は「22698」の約二分後(臍帯脱出時)まで、胎児の心拍数は全く正常であったことが認められる。」

8  同九行目冒頭の「乙第六号証」の前に「右のうち、」を加え、同二二枚目表末行の次に行をかえて次のとおり加える。

「そして、当審における鑑定の結果によれば、これら二回の徐脈と思われる現象があったというだけでは、臍帯下垂の徴候であるとしてそれを予見する決め手にはならず、また、臍帯下垂を疑うべきであったと要求することも妥当ではないことが認められる。」

9  同裏一行目冒頭の「結局」の前に「以上によれば、」を加え、同行の「には異常はなく」を「から」に、同二行目の「や」を「、さらには」に、同行の「に足る証拠はない」を「ことはできず、他にこの点を肯認するに足りる証拠もない」に各改める。

10  同二三枚目表一行目の「認められる。」の次に「さらに、当審における鑑定の結果によれば、本件の出産・分娩の当時に発売されていた機器は、腹壁上から超音波を発射して反射波をとらえるものであって、骨盤位分娩時の先進部のあたりは子宮頚管の部分に相当するので、その部分に臍帯が存在する(すなわち臍帯下垂の状態)かどうかを右の機器を用いて診断することは、頚管の部分が恥骨の蔭になるため不可能であったこと、また、より高価なカラードップラー方式を用いた機器を用いれば、現在では臍帯の位置の診断がより正確に行えるが、本件の出産・分娩の当時はそのような機器は、国立病院はもちろん、大学病院でも未だ使用されていなかったことが認められる。」を加え、同四行目から五行目へかけての「胎児の心音にも異常所見」を「前記のような胎児の心音の推移から臍帯下垂、さらには脱出の徴候である所見」に改める。

11  同二四枚目表五行目冒頭の「三」を「四」に改め、同裏四行目の「証人江崎」の次に「(原審・当審)」を加え、同一〇行目の次に行をかえて次のとおり加える。

「なお、後記五に判示するところと当審における鑑定の結果を総合すれば、本件の臍帯還納術は、胎児部分と産道との間における臍帯血管への圧迫を避けるために、臍帯を押し上げることを試みたことに意味があり、また牽引術は、これが成功すれば、臍帯脱出から八分余で胎児を娩出できたことになるから、緊急の手段として一応は試みる価値があったことが認められ、しかも両術式ともに試みるまでは成功するか否かは予見不可能であるから、試みたこと自体を不必要と判定することはできないものと認められるので、これらの諸点からみても、江崎医師の裁量による判断が不当であったということはできない。」

12  同二五枚目表末行の「比較からみても」の次に「、また、当審鑑定人が鑑定の結果を得るに当たって実施したアンケート調査(被控訴人病院とほぼ同程度の医療水準にある三〇の病院に対するもので、回答数二六が得られた。)の結果、分娩進行中に胎児仮死その他の適応で緊急帝王切開実施を決定した場合に、執刀までに一五分から三〇分の時間が必要であると回答した病院が最多数を占めたことに照らしても、」を、同裏一行目の「一四号証」の次に「、当審における鑑定の結果」を各加える。

13  同三行目の「ことからみても」を「ことをも併せ検討すると」に改め、同行の次に行をかえて次のとおり加える。

「五 争点4について

控訴人らは、江崎医師が骨盤位分娩において通常求められている娩出術の適切な実施を怠り、帝王切開による娩出までの間、胎児を低酸素状態においた旨主張する。

江崎医師が実施したのは臍帯還納術及び緊急遂娩術としての骨盤位牽引術であって(前記一4認定の事実、証人江崎(原審・当審)の証言、当審における鑑定の結果)、いずれも困難な手技、術式である(当審における鑑定の結果)。そして、本件分娩が緊急の事態下に進行・推移していたことは既に認定した事実関係からみて明らかである。一般に、右のような緊急事態のもとにおいて、最善のものとして選択すべき手技、術式については、特段の事情のないかぎり、当該緊急事態のもとで、この事態の解消を志向しつつ、現実に医療行為を担当、実施している当該医師の、その時点における臨床医学の実践における医療水準を基準とした専門技術的裁量に委ねられているものと解するのが相当である。そこで、以下江崎医師によって実施された右の各術式について検討する。

1 臍帯還納術

子宮口が全開大に近い場合に脱出した臍帯を還納することは非常に困難であり、たとえ還納してもすぐ再脱出する可能性が高いところ、本件の場合には、前示のとおり、胎児部分と産道との間における臍帯血管への圧迫を避けるために、臍帯を押し上げることを試みたことに意味があったのであって、臍帯脱出発見後に胎児を救命するために実施を試みる価値は存在したといえるから、結果として還納に失敗しているからといって、江崎医師の術式選択が不適切で妥当を欠くものであったとすることはできない(当審における鑑定の結果)。

2 骨盤位牽引術

通常の骨盤位牽出術では、胎児心拍数の監視を厳重に行いつつ、胎児の下半身が自然の陣痛によって娩出されるのを辛抱強く待機し、児の臍輪が娩出され肩胛骨の下部が娩出されるころには、児の最大周径を有する児頭が骨盤の入口に近づき、児頭と骨盤との間で臍帯が圧迫されるので、この時間を最短にするために、上半身の牽出、両上肢の解出と牽出、児頭の娩出を医師が介助しつつ迅速に行う。この際に、横8字法、上肢解出術、ファイト=スメリー法などの手技が用いられる(<書証番号略>、当審における鑑定の結果)。

これに対して骨盤位牽引術は、臍帯脱出など胎児や母体に危機が迫っている場合に、急速遂娩術として行うもので、通常の骨盤位分娩のように児の下半身が自然に娩出されるまで待機せずに、児の下肢、下半身、上半身、上肢、頭を術者の手指によって牽引、牽出する手技である。この際に、最も起こりやすい危険は、児の両上肢が挙上して、児頭の周囲に両上肢の幅を加えた周径が骨盤入口を通過せねばならなくなり、児頭の娩出が極めて困難になることである。また、産道に抵抗がある場合に、無理に牽引を行うと、胎児が分娩損傷を受ける危険がある(当審における鑑定の結果)。

前記のとおり、江崎医師が行った娩出術は、通常の骨盤位牽出術ではなく、急速遂娩術としての骨盤位牽引術であることが明らかである。以上までに認定した事実関係と当審における鑑定の結果に照らすと、前示のような母体及び胎児の状況や牽引術成功の場合における娩出時間短縮の可能性等に鑑み、江崎医師が骨盤位牽引術を試みた判断が不適切で妥当を欠くものであったということはできず、またその牽引自体に費やした時間は約三分と比較的短く、かなり高い位置で強い抵抗を感じて牽引を中止した点も、胎児の分娩損傷の危険を避けるという観点から、前記医療水準に照らし、やむを得なかったものというべきであるから、結果的に右の術式が奏功しなかったからといって、右牽引術の実施及びその実施方法が不適切で妥当を欠くものであったということはできない(当審における鑑定の結果、弁論の全趣旨)。

3  以上によれば、江崎医師が本件分娩において実施した右の各術式は、先に述べた医師の専門技術的裁量の範囲を逸脱してなされたものとはいえず、他にこの点を首肯できる特段の事情の存在を認めるべき証拠は存しないから、これを不適切ないし妥当を欠くものであったとすることはできない。

4 もっとも、控訴人らは、江崎医師が子宮口の全開大を十分確認しないまま牽引術を行った旨主張している。しかし、本件全証拠を総合しても、急速遂娩術としての骨盤位牽引術のためには、子宮口の全開大が絶対の要件となることを認めるに足りないのみならず、前示のとおり、江崎医師は、胎児の推定体重が約二六〇〇グラムとやや小さめであることを前提とし、控訴人雅江の子宮口がほぼ全開大で、子宮頚管も完全に展退していることを確認したうえで、本件牽引術を実施したものであるから、その要件の判断も、右の医療水準に照らして、不適切で妥当を欠くものであったということはできない。

5 以上のとおりであって、他に江崎医師が骨盤位分娩において求められている娩出術の適切な実施を怠ったことを認めるに足りる証拠もない。したがって、結果的に胎児が本件分娩中、帝王切開による娩出までの間、低酸素状態に置かれることとなったとしても、控訴人らの主張する娩出術の適切な実施がなされなかったことによるものということはできない。他に右の点を首肯すべき資料は存しない。

六 なお、本件分娩当時の臨床医学の実践における医療水準に照らして、江崎医師ないしは被控訴人病院に、本件分娩につき過失があるとして、被控訴人の責任を問うべき事実関係を肯認するに足りる証拠もない。」

第六結論

以上によれば、その余の点につき検討、判断するまでもなく、各控訴人の請求はいずれも理由がない。よって、これらを棄却した原判決は正当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴費用の負担につき民訴法九五条、九三条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官仙田富士夫 裁判官渡邊壯 裁判官前川鉄郎は、転補のため、署名押印することができない。裁判長裁判官仙田富士夫)

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